2026年4月3日、高知県は安芸福祉保健所管内の80代女性が日本紅斑熱に感染したと発表した。高知県内における今年初の確認事例であり、マダニが本格的に活動を開始する春のシーズンに入ったことを示す明確なシグナルだ。
日本紅斑熱は、リケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)を病原体とする感染症で、キチマダニ・フタトゲチマダニ・ヤマトマダニなどに刺されることで感染する。発熱・発疹・刺し口を三主徴とし、重症化すると死亡することもある。2019年には全国で13人が死亡しており、決して軽視できない疾患だ。
過去最多を更新し続ける感染者数
日本紅斑熱の全国感染者数は近年、急速に増加している。
| 年 | 全国報告数 |
|---|---|
| 2017年 | 337件 |
| 2018年 | 305件 |
| 2019年 | 318件(死亡13人) |
| 2022年 | 457件 |
| 2023年 | 500件 |
| 2024年 | 集計開始以降で過去最多(500件超) |
高知県では2025年の1年間で25人が感染——これも県内過去最多の記録だ。今年4月3日時点ですでに1人目が確認されており、2025年の水準を再び超える可能性がある。
なぜ春が最も危険なのか——マダニの生態から読み解く
害虫防除の現場では、「マダニのリスクは秋だけ」という誤解が根強い。しかし実際には、4月から活動を開始し、春と秋の2回、刺咬リスクのピークが来る。
マダニは「卵→幼虫→若虫→成虫」という変態サイクルを持ち、未吸血のまま越冬した個体が気温上昇とともに一斉に活動を再開する。植物の葉先や草むらで「待ち伏せ」し、通過する動物や人間に付着して吸血する。吸血は数日から最長2週間に及ぶ場合があり、吸血開始から時間が経つほど感染リスクが高くなる。
日本紅斑熱の発生が4月から11月に集中する理由はここにある。今回の高知県の事例も、農作業や山野での外出が増える春の行楽シーズンと重なっている点が特徴的だ。
また、気候変動による気温上昇も無視できない。2026年春のマダニシーズンは過去最悪水準の予測が出ており、ライム病のような他のマダニ媒介感染症との複合リスクも高まっている。SFTSもすでに関東・北海道で初確認されており、日本全体がマダニ感染症の脅威にさらされている。
「刺されていない」は危険な思い込み——見落としやすい3つの盲点
害虫防除の専門家として現場で繰り返し見てきた事実がある。日本紅斑熱に感染した患者の多くが、「ダニに刺された記憶がない」と話す。この現象には生物学的な理由がある。
盲点①:マダニの唾液には麻酔成分が含まれる
マダニが吸血を始める際、口下片を皮膚に差し込んだ後にセメント物質で固定し、同時に麻酔様成分を注入するため、刺咬直後に痛みや痒みをほとんど感じない。
盲点②:刺咬部位は「気づきにくい場所」に集中する
マダニは柔らかく暖かい部位を好む。頭皮・耳の裏・わきの下・膝の裏・股間など、自分では確認しにくい場所に付着することが多い。
盲点③:潜伏期間中に「普通の発熱」と誤認される
刺咬から2〜8日後に高熱(38〜40℃)・頭痛・倦怠感が出現する。この段階でインフルエンザや風邪と誤診されるケースがある。特徴的な紅斑(痒みのない赤い発疹)が体全体に出現するのはやや遅れるため、初診時の判断が難しい。
テトラサイクリン系抗生物質が第一選択薬として有効だが、診断の遅延が重症化・死亡につながる。「野外活動後の発熱」は、マダニ媒介感染症を疑う習慣を医療機関・本人双方に持たせることが急務だ。
今すぐできる4段階の防除アプローチ
高知県事例を受けて、害虫防除の観点から個人・施設・地域のそれぞれに有効な具体策を整理する。
【個人レベル】野外活動時の基本防護
- 長袖・長ズボン着用、ズボンの裾を靴下に入れる(マダニの侵入経路を物理的に遮断)
- ディート30%以上またはイカリジン含有の忌避剤を露出部に塗布(30〜60分ごとに再塗布)
- 明るい色の服を着用(付着したマダニを視認しやすくする)
- 帰宅後の全身チェック——頭皮・耳裏・わきの下・膝裏を鏡とライトで確認
【発見時の対応】「絶対にやってはいけない」こと
最重要事項として、マダニを無理に引き抜いたり潰したりしてはいけない。口器が皮膚内に残留するうえ、マダニの体液中のリケッチアが傷口から注入されるリスクが高まる。発見した場合は皮膚科・外科を受診し、専用器具で除去してもらうことが原則だ。
【施設・農場レベル】環境管理による根本的防除
- 敷地内の草刈りを定期実施(マダニの待ち伏せ場所を排除)
- イノシシ・シカのフェンス設置(マダニを運ぶ野生動物の侵入防止)
- ピレスロイド系または有機リン系薬剤の定期散布(梅雨前・秋前の年2回が効果的)
- ペットの定期的なダニ駆除処置(室内への持ち込みルート遮断)
【地域レベル】野生動物管理との連携
マダニの感染症リスクは、野生動物(シカ・イノシシ・タヌキ等)の個体数と分布と深く連動している。農業地域や中山間地では、自治体の有害鳥獣管理と害虫防除の連携体制を構築することが、日本紅斑熱やSFTSの長期的な抑制につながる。
まとめ:「春のマダニリスク」は今が対策の最前線
高知県の2026年初確認例は、春の野外活動シーズン開幕と同時に日本紅斑熱のリスクが始まっていることを改めて示した。感染者数は2023年に500人を突破し、2024年には過去最多を更新。高知県単独でも2025年は25人という記録的水準だった。
治療薬はあるが、診断が遅れると致死的だ。ワクチンは存在しない。唯一の防衛手段は「刺されない」ための防除の徹底と、刺された後の早期受診の習慣だ。
今年の春、山野での農作業・ハイキング・キャンプを予定している方は、今すぐ防護対策を講じてほしい。マダニは小さく目立たないが、その危険性は決して小さくない。
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