植物の毛は「害虫だけ捕まえ天敵は素通り」──静岡大が選択的防除の仕組みを解明
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静岡大学の田上陽介准教授らの研究チームは、インゲンマメの葉に生える微細な毛「トライコーム(フック毛)」が、害虫のハモグリバエだけを捕まえ、その天敵である寄生バチは素通りさせる仕組みを解明した。2026年1月15日付で学術誌『Pest Management Science』に掲載されたもので、薬剤に頼らない選択的な害虫防除の設計図として注目されている。
インゲンマメの葉が見せた「選り好み」
研究チームが着目したのは、インゲンマメの葉の表面にある3種類のトライコームだ。とくに成熟した葉の裏側に高密度で生えており、物理的なわなとして働く。害虫であるマメハモグリバエなどのハモグリバエ類が葉にとまると、30〜40%の成虫がこの毛に脚を取られて動けなくなった。
捕らえられた害虫は時間とともに弱り、8日間で78.3%が死亡した。一方、ハモグリバエの幼虫に寄生する天敵のハチ(Hemiptarsenus varicornis と Diglyphus isaea の2種)は、毛に引っかかる割合がわずか1.6〜3.3%にとどまった。天敵による寄生率は、毛の有無にかかわらず80〜87%を保った。
脚の太さが運命を分ける物理メカニズム
なぜ害虫だけが捕まり、天敵は逃れられるのか。カギは脚の構造の違いにある。害虫のハモグリバエは脚が太く、表面に微細な凹凸があるため、フック状の毛に引っかかりやすい。対して天敵の寄生バチは脚が極めて細く、毛と毛の隙間をすり抜けられる。
つまり、葉そのものが薬剤を使わずに「害虫は捕らえ、味方は通す」ふるいの役割を果たしている。化学農薬は害虫も天敵も区別なく殺してしまうことが多いが、この物理的な選択性は天敵を温存しながら害虫だけを減らせる点で根本的に異なる。
実験結果の数値まとめ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 害虫の捕捉率 | 成虫の30〜40% |
| 害虫の死亡率 | 8日間で78.3% |
| 天敵バチの捕捉率 | 1.6〜3.3% |
| 天敵の寄生率 | 80〜87%(毛の有無に関係なし) |
| 研究機関 | 静岡大学 |
| 掲載誌 | Pest Management Science(2026年1月15日) |
研究者・専門家の反応
研究は田上陽介准教授のほか、大畑悠太氏、澤田裕子氏、石原佑樹氏らが担当した。チームは、この仕組みが過度な化学農薬に頼らない害虫管理の基盤になると位置づけている。天敵を生かしたまま害虫を抑えられるため、生物的防除と物理的防除を組み合わせる新しい設計が可能になる。
害虫防除の分野では、薬剤耐性や生態系への影響を避けるため、化学薬剤以外の手段への関心が高まっている。植物が本来持つ防御構造を活用するアプローチは、作物の品種改良や栽培管理にも応用できる可能性があり、農業分野からも評価されている。
日本の読者にとっての含意
マメハモグリバエは日本の施設栽培でも問題になる害虫で、葉に白い筋状の食害痕を残す。今回の研究は、その防除に「葉の毛の密度」という新しい視点を加えた。害虫に強い品種を選ぶ、あるいは天敵を放す生物的防除と物理構造を組み合わせることで、農薬の使用量を抑えられる可能性がある。
一般家庭の害虫対策にも示唆がある。すべての虫を一律に殺すのではなく、対象を絞って防ぐという考え方は、薬剤を最小限にしたい家庭やペットのいる環境と相性がよい。物理的に侵入や定着を防ぐ発想は、隙間封鎖や捕獲といった日常の対策とも通じる。
害虫駆除業界への波及
狙った種だけを抑える「選択的防除」は、害虫駆除業界が向かう方向性そのものだ。薬剤耐性が広がるなか、薬量を増やすのではなく、害虫の性質や行動を逆手に取る技術が価値を増している。ニンニク成分で蚊の繁殖を阻止する研究のように、生物の弱点を突くアプローチは選択的防除と同じ思想に立つ。
シロアリ防除でも、薬剤の散布範囲を絞る局所施工が進んでいる。松の香りでシロアリを誘引する「ピネン工法」のように、対象を引き寄せて狙い撃ちする技術は、環境負荷を抑える次世代の防除として注目される。植物の毛が示した物理的な選択性も、こうした流れを後押しする基礎研究といえる。
まとめ
害虫だけを捕らえ天敵を通す葉の毛の発見は、薬剤に頼らない選択的防除の可能性を広げた。日本でも問題になるハモグリバエの防除に直結する成果であり、農業から家庭の害虫対策まで、対象を絞って防ぐという発想の重要性を改めて示している。
参考
PR TIMES/静岡大学「植物のフック毛が害虫を選択的に捕捉する仕組みを解明」
Pest Management Science(DOI: 10.1002/ps.70523)
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