60年ぶりに米本土で「ラセンウジバエ」再発生──生きた家畜を食い荒らす寄生バエ、テキサスで確認

当ページのリンクには広告が含まれています。

米農務省動植物検疫局(USDA APHIS)は2026年6月3日、テキサス州ザバラ郡の生後3週間の子牛から、生きた動物の肉を食い荒らす寄生バエ「ラセンウジバエ(New World screwworm)」を確認したと発表した。米本土の家畜での発生は数十年ぶりで、同じ郡では数日後に2例目も見つかった。中南米で被害が急拡大するなか、米畜産業は牛肉高騰の懸念に直面している。

目次

テキサス州ザバラ郡で60年ぶりの本土発生

最初の感染が確認されたのは、生後3週間の子牛のへその緒付近だった。USDAによると、2例目は約5.6マイル(約9キロ)離れた場所にいた生後1か月の子牛で確認された。ラセンウジバエが米国内の家畜で検出されたのは1960年代以来とされ、当時は不妊化したオスを大量に放つ「不妊虫放飼法」によって本土から根絶された経緯がある。

ラセンウジバエのメスは、生きた動物の新しい傷口に卵を産みつける。ふ化した幼虫(ウジ)は、傷口から生きた組織を食い進み、放置すれば内臓へのダメージや重い細菌感染を引き起こす。ペットや人にも寄生しうる点が、一般的なハエとの決定的な違いだ。

「肉を食べる」寄生バエが恐れられる理由

通常のハエは死んだ有機物に集まるが、ラセンウジバエの幼虫は生きた温血動物の組織だけを食べる。傷口に群れて食い込む様子がねじ(screw)に似ていることが名前の由来だ。1頭の家畜に数百の幼虫が寄生することもあり、適切に処置しなければ短期間で命を落とす。

米疾病対策センター(CDC)や農務省は、ラセンウジバエが食肉・果物・野菜などの食品には寄生しないため「米国の食料供給は安全」だと強調している。問題は生きた家畜とペット、そして畜産経営への打撃にある。

不妊虫放飼法による封じ込めの全容

USDAは感染確認地点の周囲に半径20キロの「感染ゾーン」を設定し、家畜の移動制限・検疫・監視を実施している。同時に、地上型の放飼チャンバーを即時投入し、不妊化したラセンウジバエの放出を加速させた。すでに同地域では週400万匹の不妊バエが空中散布されている。

不妊虫放飼法は、放射線で不妊化したオスを野生集団に放ち、一生に一度しか交尾しないメスと交配させて無精卵を産ませることで、世代を重ねるごとに個体数を減らす手法だ。USDAはパナマのCOPEG施設で週約1億匹の不妊バエを生産しており、テキサス州エディンバーグのムーア空軍基地跡に新たな生産施設を建設する契約も結ばれた。

発生・対応の数値まとめ

項目 内容
初確認日 2026年6月3日
発生地 テキサス州ザバラ郡
確認頭数 子牛2頭(約9キロ圏内)
感染ゾーン 半径20キロ
空中散布 週400万匹の不妊バエ
パナマ生産能力 週約1億匹
前回の本土根絶 1960年代(不妊虫放飼法)

現地・業界の反応

テキサス州のアボット知事は、被害拡大を受けて非常事態の宣言を出し、州を挙げた防疫体制を敷いた。州動物衛生委員会(TAHC)は、テキサス・アリゾナ・ニューメキシコの獣医師に注意喚起を行い、家畜の傷口の早期発見と報告を呼びかけている。

畜産業界からは、まん延すれば「甚大な経済損失」につながり、すでに記録的な水準にある牛肉価格をさらに押し上げるとの懸念が出ている。一方、メキシコ国境での封鎖措置をめぐっては、米国の牛輸入が滞ることでメキシコ側の生産者に追い風が吹くとの見方も報じられている。中南米では近年に感染が急増しており、専門家は北上のリスクを警戒している。

日本の読者にとっての含意

日本では現時点でラセンウジバエの定着は確認されていない。動物検疫、輸入条件、食肉の衛生検査といった複数の関所が重なっており、すぐに国内へ広がる状況にはない。農林水産省の担当者も「発生状況を注視している」としつつ、国際基準に基づき米国産牛肉製品の輸入を停止する予定は現段階ではないとしている。

ただし、傷口に産卵する寄生性のハエという点では、日本の畜産現場やペットにとっても示唆がある。家畜やペットの傷を放置すればハエ類が産卵し、ウジがわく「ハエ症(ミアシス)」は国内でも起こりうる。傷の早期処置と、畜舎・ペット周辺のハエ対策の徹底が、結果的に最大の予防策になる。

害虫駆除業界への波及

今回の事例は、特定の害虫を狙い撃ちする防除技術の重要性をあらためて示した。不妊虫放飼法は薬剤を使わずに対象種だけを減らす手法で、薬剤耐性の問題を回避できる点が評価されている。日本でも、研究機関による選択的な防除技術の開発が進んでおり、ニンニク成分で蚊の繁殖を阻止する研究のように、生物の性質を逆手に取るアプローチが注目されている。

害獣・害虫対策では、被害が広がる前の早期発見と監視がコストを大きく左右する。プロによる害虫シーズン予測レポートのように、発生をデータで先読みする取り組みが、日本の駆除業界でも価値を増していくとみられる。

まとめ

60年ぶりの米本土での発生は、一度根絶した害虫でも国際的な人やモノの移動を通じて再び脅威になりうることを示した。日本での当面のリスクは低いものの、傷口に産卵する寄生バエへの基本対策は、畜産・ペット双方に共通する備えだ。発生状況の続報と、不妊虫放飼法による封じ込めの行方を引き続き注視したい。

参考

CNN.co.jp「米国で60年ぶりにラセンウジバエ再発生」
USDA APHIS「USDA Confirms Presence of New World Screwworm in the United States」
時事ドットコム「肉食の寄生バエ検出 まん延なら畜産業に悪影響」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次