気温が35℃を超える日が続くと、「真夏なのに虫をあまり見ない」と感じることがあります。
実際、猛暑によって発育や繁殖が鈍る虫はいます。ただし、35℃を超えれば虫全体の活動が止まるわけではありません。
35℃で繁殖に大きな影響が出る虫がいる一方、同じ35℃でも問題なく発育する種類もいます。また、屋外が猛暑でも、日陰や室内には虫が活動できる環境が残っています。
35℃で「夏バテ」する虫は実際にいる

高温の影響がはっきり確認されている例が、食品害虫のノシメマダラメイガです。
農研機構が紹介している飼育試験では、卵から成虫になるまでの日数は、
25℃:28日
28.3℃:22.6日
31.7℃:20.2日
35℃:25.1日
でした。
31.7℃までは温度上昇とともに発育が速くなっています。しかし35℃になると、逆に約5日遅くなっています。
さらに差が大きいのが繁殖です。小麦ふすまで育てた雌雄ペアから生まれた次世代の平均成虫数は、25℃で280匹、28.3℃で328匹、31.7℃で339匹だったのに対し、35℃では0匹でした。
高温によって雄の精子の発達が阻害されたことが原因と考えられています。
つまり、「暑いほど虫が増える」のではなく、その虫が耐えられる温度を超えると、発育や繁殖能力が落ちることがあります。
ただし35℃でも元気な虫はいる
ここで注意したいのが、「35℃=虫が弱る」と一般化できないことです。
農研機構が紹介しているガイマイツヅリガでは、幼虫が成虫になるまでにかかった日数は25℃で約40日だったのに対し、30℃と35℃では約30日でした。
先ほどのノシメマダラメイガとは逆に、35℃でも発育速度が落ちていません。
ガイマイツヅリガは熱帯に由来する食品害虫で、高温への適応力が高いと考えられています。
この違いを見ると、「虫が活動しやすいのは20〜25℃」という説明も、すべての昆虫には当てはまりません。
種類ごとに適した温度は異なり、20〜25℃付近を好む種類もいれば、30℃を超えても発育しやすい種類もいます。
真夏に蚊が減ったように感じる理由
猛暑の影響を身近に感じやすいのが蚊です。
国立感染症研究所によると、ヒトスジシマカが発生する容器に真夏の直射日光が当たると、水温が40℃以上になり、幼虫が死滅すると考えられています。
一方、樹木に覆われた日陰にある容器では、幼虫が高い割合で確認されています。
つまり、猛暑日に蚊が減ったように感じても、地域から蚊が消えたのではなく、強い日差しを避けられる場所に発生源が偏っている場合があります。
庭やベランダでは、植木鉢の受け皿、バケツ、雨水がたまった容器など、特に日陰になっている場所を確認した方がよいでしょう。
屋外が35℃でも室内のゴキブリまで止まるとは限らない
猛暑時に屋外の虫が少なく見えても、室内害虫は事情が異なります。
2023年に発表されたチャバネゴキブリの研究では、10℃から35℃までの一定温度で幼虫を飼育しています。
10℃と15℃ではすべての幼虫が初齢のうちに死亡しましたが、チャバネゴキブリは35℃でも幼虫から成虫まで発育を完了しました。
チャバネゴキブリは住宅、飲食店、ビルなど屋内環境への適応が強い種類です。
また、家庭でエアコンを使用していれば、外気温が35℃以上でも冷蔵庫の裏、シンク下、家具や家電周辺が同じ温度になるとは限りません。
「外で虫を見なくなったから、家の中の害虫も減った」と判断するのは早いでしょう。
夏の室内害虫については、夏の害虫対策完全版でも詳しく解説しています。
猛暑で一時的に減っても、温暖化では発生期間が長くなる
ここが「猛暑」と「温暖化」を考えるうえで重要な違いです。
35℃を超える極端な高温は、一部の虫にとって不利になります。しかし年間の平均気温が上昇すると、春と秋の活動できる期間が長くなります。
農林水産省は、温暖化などの気候変動によって、国内の病害虫で発生地域の拡大、発生量の増加、発生時期の早期化、終息時期の遅延が起きているとしています。
さらに都道府県への聞き取りでは、具体的に次の変化が挙げられています。
斑点米カメムシ類:気候変動による冬期越冬個体数の増加
ハスモンヨトウ・オオタバコガ・シロイチモジヨトウなど:発生時期の変化と発生量の増加
2026年8月5日に農林水産省が発表した病害虫発生予報でも、斑点米カメムシ類は東北、関東、甲信、北陸、東海、近畿、中国、四国、北九州の一部で「多い」と予想されています。
出典:農林水産省「総合防除の一層の推進と現場への浸透に向けたオンラインセミナー資料」
猛暑で虫が減ったように見えても対策は必要
猛暑で虫が減るかどうかは、虫の種類といる場所によって変わります。
ノシメマダラメイガのように35℃で発育や繁殖に大きな影響を受ける虫がいる一方、ガイマイツヅリガやチャバネゴキブリのように35℃でも発育できる虫もいます。
蚊も、直射日光が当たる場所では幼虫が死滅することがありますが、日陰の水たまりには残ります。
「35℃を超えたから虫がいなくなった」のではなく、猛暑に弱い虫が減ったり、活動場所が変わったりしていると考える方が実態に近いでしょう。
さらに温暖化を年間単位で見ると、発生開始の早期化や終息の遅延も起きています。
真夏に虫を見かける回数が減っても、水たまりの除去、食品の密閉、生ゴミの管理、室内への侵入口対策などは続けておくことが重要です。
季節ごとの害虫の違いは、害虫発生の季節別カレンダーでも確認できます。
